アルファGT試乗記ー畑川 治

アルファGT2.0JTSを試乗する機会を得た。アルファスポルトの関係で、これまでに156や147はかなり走り込んでテストをしているし、アルファGTはその延長線上にある車として認識していたので、あまり大きな期待を抱いていなかったのだが、それは間違いで、アルファGTはその名前に相応しい、完全な個性を持つ車だった。

アルファGTは写真で見るよりも実車の方が存在感がある。車全体のバランスはアルファ独特の個性とアグレッシブさを感じさせるもので、現代的モダンの中にも伝統の深みを感じるのが凄い。こうしたデザインが出来るのはベルトーネのデザインの能力によるものだが、しかし、それ以前にイタリアの伝統や文化といった下地の環境があっての造形であろう。
コックピットドリルもそこそこに乗り込んで走り出す、まずは大阪の街中に繰り出した。
乗り込んでみるとルーフの低さに圧迫感はない。またルームミラーに写る狭いリアウインドゥと共に、ある種の緊張感があり、少し異次元の世界の入口を感じさせてくれる。
スポーティな車で気になるのは街中の走行である。それはスポーツ性を重視した為に、例えばエンジンのパワーバンドが高回転域にあり、低速域を使う街中では乗りづらいとか、サスペンションも硬過ぎて乗り心地を悪くする、といったことが危惧されるが、アルファGTは全くそうした問題は無く、ごく自然に市街地の走行をこなしてしまう。
足は硬めだが乗り心地は良い。というのもダンパーがよく働いていているからで、専門的にはサスの初期の動き出しは減衰をあまり効かせず、その後、減衰力を大きく発生させるセッティングとしている為で、バネレートを上げても良い乗り心地が確保出来ているのである。ただ、足とはむつかしいもので、全ての速度域、全ての路面で良い乗り心地を確保することは不可能であり、さすがにアルファGTも路面によっては、多少の縦揺れを発生していた。
さて、西名阪に入り一路鈴鹿峠に向かう。料金所を過ぎて踏み込むとファーンとアルファ独特のエンジン音と共に気持ちの良い加速だ。
こんなにJTSのエンジンは快適に吹け上がるのかと関心する。
私が初めてアルファに乗ったのは76年頃で車はアルファスッドだ。その音と吹け上がりの気持ち良さに何とも言えない感動を覚えたが、そんなことを思い出した。
高速道路の走行で大切なのはスタビリティの高さで、要するに安心してどこまでも走って行けることだ。アルファGTの高速道路のスタビリティは高く、速度感が20キロ程度変わる。つまり、体感100キロでもメーターを見ると120キロ出ている訳で、速度に対する安心感が高い。ただ、スピード違反でつかまらないように用心を要するが・・・・。
ヨーロッパでは高速道路でのアベレージ速度が高く、また長距離を移動するのでヨーロッパの車は小さな車でも総じて高速の安定性は良いが、グランドツーリングと銘打つ車は、まさにそこが真骨頂であり、このアルファGTもその名に恥じない。
スピードは160キロまでしか試せなかったが、その安定感は何ら変わらない。こうしたスタビリティの確保には、大きな215/45-17のタイア、そして硬めのバネに上手く減衰を効かせたサスペンションとのマッチングなどによるものだが、おそらくこのボディは空力的にマイナスリフト(ダウンフォース)を得ていると思える。というのも160キロあたりになるとリフトを発生しているボディはハンドルが軽くなり安定感が損なわれ始めるが、アルファGTはそうした不安感が全くないからだ。


関で東名阪を降りると国道1号線に入り鈴鹿峠に向かう。途中2車線になり、そこからはマイペースで飛ばせる。比較的ゆるやかなワインディングの走行で、100キロ前後で快適に峠を登る。こうしたシーンでアルファGTは実に生き生きと走る。硬めのサスはロール剛性が高く、左右の連続するコーナーを気持ち良く身をひるがえして走る。コーナリング中の橋の継ぎ目ではトンと横にズレるが、一瞬であり不安感は全くない。

連続した登り坂だがエンジンは常にパワーバンドに乗り快調そのもの、2リッターという排気量を疑いたくなるほどだ。このエンジンは、むりやり力を出しているという印象ではなく、下から上までよく燃えるというか、燃焼の良さを感じるもので、エンジンマネージメントも非常に上手く仕上がっている印象だ。とにかく速い、峠はあっという間に登り切ってしまう。トンネルを越えると国道1号線と別れ、テストコースとして設定しているワインディング路に向かうと、そこではかなりハードに攻めてみる。
2速から4速までを使う走行だが、マニュアルモードに入れたセレスピードは反応もよく、ハンドルから手を放さずに瞬時にシフト出来ることの良さは、今更ながらF1がそれを早々に採用した意義を思い知ると共に、まさにスポーツドライビングをより楽しくするデバイスである。
コーナリングの限界速度はかなり高く、ステア特性は、ほぼニュートラル、限界を超えると弱々アンダーとなる。そこでアクセルを離してタックインを試みると、僅かにリバースする程度で穏やかなもの、とにかく全体に挙動は安定していて非常にコントローラブル。それらの動きは、この車の持つ雰囲気に相応しく大人の印象で「どうだ、コーナリングも完璧だろ」と言わんばかりの感がある。
それまでの走行でフィール、効き共に問題の無かったブレーキも、こうして攻め込むと効きがイマイチだ。というのも排気ガス対策で今の車はエンジン回転の落ちが悪く、シフトダウンをしてもエンジンブレーキの効きが悪いのでフルブレーキング時にはフートブレーキに頼ることになる為だ。さすがにアルファスポルトのブレーキパッドが欲しくなった。
乗り始めから気に入っていたシートは形状、硬さ共に程良く、長時間乗っても疲れないし、こうしたワインディング走行でのホールド性も含めて非常に良いものである。
テストらしい走行を終えると普通の走行に戻り、山あいの村をゆっくりと走る。そんなシチュエーションもまた、この車に誠に似合っている。




『ここで降りた方がいいよ』と、私は途中で降ろされた。
それから畑川さんは一人で、本文中にある『かなりハードに攻めてみる。』を実行した。
実はそこに行くまでのワインディングで、私は悲鳴をあげてしまった。・・・天下の畑川さんのドライブであるにも関わらず。
本気モードでなくても、並みの早さではない。あのスピードでコーナーに突っ込んでいったら、我々素人は無事では済まない。
コーナリング中でもアクセルは開けたままだし、ナミの人間とは次元の違うスピードなのだ。
畑川さんの本気な攻めに対しても、アルファGTは悲鳴をあげなかったというからエライ!

■畑川さんについて、私から簡単にご紹介します。
1970年代の終わりに単身で英国に渡り、あのアラン・プロストや、ナイジェル・マンセルらと共にF3を戦った方です。
現在は、F3をはじめ数々のレース団体の要職にあり、東京R&D社の顧問、若手レーシングドライバーを育成するハタガワモータースポーツの代表です。また、レーシングカー“カドウェル”の設計者であり、2シーター市販スポーツカー“ヴィーマック”の産みの親でもあります。そして何より、アルファスポルトの開発に最初から関わっていただいたアドバイザーです。
2004年11月1日発売の芸文社発行『ノスタルジックヒーロー』誌に、畑川さんが紹介されております。

裏レポート 八光自動車工業(株)企画室 高橋千秋
 
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